ページをめくるたびに、山の空気や木々の匂いまで感じられるような本があります。
里山ソムリエ・黒田美佳さんが綴る『森に暮らす』は、山形の自然とともに生きる日々を、二十四節気に寄り添いながら記した一冊です。
暮らしの中で出会った植物や山菜の話、畑仕事や郷土料理、家のまわりに広がる森の風景。
どのエピソードも写真とともに丁寧に紹介されており、読み進めるうちに、まるで自分もその土地に足を踏み入れたかのような感覚になります。
季節の移ろいを肌で感じながら生きることの豊かさを、そっと教えてくれる本です。
なぜこの本をおすすめしたいのか
この本を読んでまず心を動かされるのは、美しい写真の数々です。
森の奥深さ、手仕事のぬくもり、草花の生命力――どれもが色鮮やかに写し出されていて、「こんな場所に行ってみたい」と自然と思わせてくれます。
そして何より、綴られている言葉がとてもやさしい。
一つひとつの文章が、詩のようでもあり、絵本のようでもあり、心にそっと染み込んできます。
それは黒田さんが自然と向き合い、森の中での暮らしを「特別なもの」としてではなく、日々の営みのなかで当たり前のように大切にしているからこそ出てくる言葉なのだと思います。
たとえば、ヒメオドリコソウを一輪摘んでテーブルに添えたり、自分の手で畑を耕し、四季折々の恵みを育てたり。
さらに、森の木々の枝やつるを編んでカゴを作るなど、自然と手を取り合うような暮らしぶりが描かれています。
自然をただ眺めるのではなく、手を動かし、心を込めて暮らしに取り入れていく。そんな丁寧な日々が、この本のページには静かに息づいています。
山形の森に根づく植物たちの名前や、土地に根ざした文化の紹介も多く、「自然」という大きな言葉では見えにくかったものが、少しずつ輪郭を持って見えてくる。
解像度が上がるように自然を感じられる、そんな一冊です。