紅葉を見に行きたい。
そんな気持ちになったのは、例年以上の猛暑となった8月、9月を過ぎ、10月になってようやく秋を感じる涼しさが出てきたからだ。
例年以上の猛暑は紅葉の時期にも影響を与え、多くの紅葉スポットで満開の時期が2週間から3週間ほど遅れているようだった。
紅葉スポットは東北各地に名所と呼ばれるところはあったが、筆者が今回訪れたのは秋田県湯沢市にある小安峡。
その場所に行ってみたいと思ったのは、取材で秋田県を訪れる度、何度か訪れたことがある場所で、昔ながらの温泉地のようなのどかさと、山間の土地にひっそりと立った温泉宿の連なりの雰囲気が自分の好みだったからだ。
小安峡を訪れたのは11月上旬。小安峡は標高の高い場所にあり、その頃ともなると小安峡に行く道の一部は順次冬季通行止めとなっていたが、今回はナビを使いながら、宮城県側の栗原市から須川高原の側を通って小安峡へと向かう道を通った。
つづら折りの峠道を登っていくと、道中、霧が周りに立ち込めて視界不良となる。霧の中から急に現れる木々の幻想的な紅葉に目を奪われそうになりながら、ゆっくりと慎重に車を進める。
霧の中を数十分走ると、ようやく霧が晴れ視界が広がる。
峠の頂きに近い場所はすでに落葉が始まっていて、ちょっと来るのが遅かったか?と一瞬頭をよぎったが、小安峡へと向かう道に従って少しずつ峠を下っていくと、まだ樹木には赤く色づいた葉っぱがまだまだ残っていた。
小安峡は、秋田県でも有数の紅葉スポットらしく、お土産屋の駐車場には多くの車が止まり、道沿いを歩いている。
その方々と同じ方向へと歩いていくと小安峡温泉を流れる皆瀬川と渓谷と紅葉、そして湯けむり。それらが合わさった情景が見える橋にたどり着いた。
すごい。その感想だけが一番初めに出てきた。この場所の特筆するべきところはなんといっても湯けむりだろう。橋の下から見下ろした場所には遊歩道が設置されているようで何人もの人が歩いている。
橋から少し歩いた場所から、谷底に続く階段が伸びていて、そこから60メートルほど下った。
橋の上から見た通り渓谷の底には遊歩道が整備されており、そこから勢いよく湯けむりがシューシューという大きな音を立てて噴出している。
その場所は「小安峡大噴湯」と呼ばれている。これまで体験したことがなかった情景に圧倒されつつ、感動に近い感情を胸にいだきながら、湯気の中をくぐる。
温泉特有の硫黄の香りを鼻に感じながら遊歩道を歩く。
自分と同じように遊歩道を歩いている人たちも、その光景を記念に写真に収めようと撮影を行っている。
谷底に来るために下ったのだから、帰りはもちろん階段を登っていく必要があるのは当然だ。かなり急な階段に息を切らせながら登りきった後には、充足感にも似た何かが胸に残った。
紅葉が有名な小安峡は巨大なつららが現れる、冬シーズンにも祭りが開かれるなど、紅葉が終わっても、訪れる人達を楽しませてくれそうだ。