
蛇口を捻れば、水が出る。 その裏側には誰かが働いている。そんな想像が、自然と思い浮かんだら。 アウトドアデザインユニット「LOCK」の山田雄介氏は、穏やかな口調でそう語った。
「アウトドアモンスター」。アウトドア好きな方なら、一度はその姿や言葉を目にしたり、耳にしたことがあるだろう。愛嬌のあるイラストで、多くの企業や団体とコラボレーションを重ねるアウトドアモンスターには一体一体に名前と独自の「生態」が与えられている。例えば、風に紛れて木の葉を揺らす、そんな悪戯好きなアウトドアモンスターもいる。
人と自然を繋ぐアウトドアモンスター。 その産みの親である山田氏が、2025年、宮城県七ヶ宿町の「みやぎ蔵王きららの森キャンプ場」に自身の活動を伝えたり、体験を提供できる拠点を建てたという情報をインスタグラムで知った。そこには、クラウドファンディングを通じて多様な人々が関わり、ハウスを作り上げていく様子が克明に記されていた。
イラストとプロダクトという境界にあったものが、実体を持った「ハウス」へと形を変えていく。そこにはどのような思いが込められているのか。2026年の4月中旬、雪解けが進み、すっかり冬の装いを脱ぎ、春の彩りを待つ「みやぎ蔵王きららの森キャンプ場」にて、山田氏から話を伺った。

当日お会いした山田氏は、柔らかな笑顔で出迎えてくれた。 日々、様々な活動を隙間なくこなす彼は、平均的な睡眠時間が3時間程度のショートスリーパーだという。「元々、陸上部だったりしたことも関係しているかも」と笑うその姿は、多忙なスケジュールの中でも、時間の隙間を縫うように軽やかに活動を推進するエネルギーに満ちていた。
山田氏の歩みは、仙台の専門学校でデザインを学び、福島県の広告代理店でキャリアをスタートさせたことから始まる。当時は深夜作業が当たり前で、一ヶ月のうち自宅で眠れるのは数日という過酷な日々。その後、印刷会社へ転職し、企画から事務、作業に至るまでを一手に担う中で、現在の活動の礎となる「多能工」としての土台を築いていった。
転機となったのは、ふと思い立って赴いた屋久島への旅だった。 当時、デザインの仕事に対してどこか迷いを感じ、面白さを見失いかけていた山田氏。しかし、屋久島の圧倒的な自然の中で歩き、登るうちに、ただその瞬間に集中し、自分自身と深く向き合う時間 ——「インナートリップ」を経験する。抱えていた悩みは、森の静寂の中ではひどくちっぽけなものに感じられた。 この感動を誰かと分かち合いたい。その純粋な思いが友人たちの共感を呼び、友人たちとの登山や自然の中での体験は彼をさらなる自然の深みへと誘っていった。
自然を愛する山田氏の視座を決定づけたのは、2011年の東日本大震災だった。 周囲が甚大な被害を受け、自身の生活も足元から揺らいでいた時、ふと空を見上げると、そこには何も変わらずに飛び続ける鳥の姿があった。 「人は自然の中で借り暮らしをしているに過ぎない」 その気づきが、自然へと寄り添う現在のスタンスを形作った。
2011年の「LOCK」立ち上げ、そして2012年の「アウトドアモンスター」誕生。せっかく地方から発信するなら、好きなアウトドアとデザインを組み合わせたい。下請けではなく、自分の名前とデザインを世に出していきたい。そんな決意を胸に、物語は動き始めた。

以来15年。生み出されたアウトドアモンスターは200体を超える。 「数にはあまりこだわりがないんです」と山田氏は笑う。アウトドアモンスター大図鑑を制作する際に数えてみて、初めてその多さに気づいたのだという。 当初は手探りで、音楽イベントの手伝いなど多種多様な場に飛び込んだ。だが、そのすべてが現在へと繋がっている。「不要なものなど一つもなかった」と語る根底には、出会う人々の生活や仕事、その背景にある「営み」への深いリスペクトがあるからだ。

そんな彼だからこそ、多くの個人や企業が共感し、絆を深めてきた。 なかでも、2016年に出会った製茶問屋「大島清吉商店」は、活動を支える強力なパートナーだ。現在は、大島清吉商店、そして家具工房「tivoli wood works」と共に、それぞれの個性を活かしたクリエイティブ集団「park」を結成。公園にある遊具のように、多様な表現を繰り出す活動を、山田氏は実に楽しそうに語ってくれた。

そのような多岐にわたる縁が波紋のように広がり、結実したのが七ヶ宿町に2025年9月に建てられた「7KA-MORI(通称:アウトドアモンスターハウス)」だ。 かつて町を舞台にした7体のアウトドアモンスターを手がけた縁から、拠点建設の相談をしたところ、トントン拍子に話が進んだ。構想から2年。クラウドファンディングでは多くの想いが集まり、支援者と共に壁を塗り、ウッドデッキを張り、アウトドアモンスターの活動に共感を得る人たちが集まれるリアルな場所を作った。

ハウス内に置かれた一枚の絵は、その象徴だ。元々は1名の支援者に贈られるはずだったが、支援者たちが「誰もがこの絵を見られるように、アウトドアモンスターハウスに飾って欲しい」と共同で資金を出し合い、山田氏に寄贈したものだという。言葉はなくとも、その絵はそこに集う人々の温かな物語を静かに語り続けている。

山田氏の活動は今、国境を越え、アジア圏、特に台湾でも熱狂的に迎えられている。アウトドアモンスターハウスを見学しに七ヶ宿を訪れる台湾のファンや、DMで熱心に生態を尋ねる人も絶えない。 さらに、活動は「アート」の分野へと純化しつつある。
アートが持つメッセージ性を信じ、モンスターの背後にあるストーリーや意味をより深く伝えていきたいという狙いがあるようだ。
2026年5月16日(土)から24日(日)まで、仙台パルコ4F吹き抜けスペースにて個展『DRIP NATURE』が開催される。これまでアウトドアを愛してきた層だけでなく、それ以外の人々へも、その思いを届けるための新たな挑戦だ。

「全ての人の活動が、目には見えないところで社会を支えています。アウトドアモンスターはあくまでそのきっかけ。大切なのは、それを入り口にして、目の前にある物事の背景にある物語にまで思いを馳せることです。そうして世界の裏側にある営みに気づくことができれば、誰もが今より少しだけ幸せになれる。そんな発見を、活動を通じて手渡していきたい」
インタビューを終えてアウトドアモンスターハウスを出た際、ウッドデッキの端に転がっていた、名もなき松ぼっくりに目が留まった。 人の営みの象徴であるハウスと、深い森。その境界線に置かれたその実は、山田氏の話を聞く前なら、単なる記号としての「松ぼっくり」として、深く留めることもなく見過ごしていただろう。けれど今は、その小さな実の中にさえ、まだ見ぬアウトドアモンスターの気配が確かに宿っているように感じられた。
蛇口を捻れば、水が出る。 その当たり前の景色が、昨日よりも少しだけ愛おしく、温かく見えてくる。山田氏が描き続ける物語は、私たちのありふれた日常に、優しい光を当て続けている。
アウトドアデザインユニットLOCK
https://www.instagram.com/outdoor_design_unit_lock/