日本三秘湯と言われる温泉がある。徳島県の祖谷温泉、北海道のニセコ薬師温泉(現在は閉館)、そして青森県の谷地温泉だ。
谷地温泉は日本百名山の一つ八甲田連峰の山間部、標高約800メートルの場所にひっそりと佇む湯宿で、開湯はおよそ400年前。今でも携帯の電波が届きにくく、時間の流れが少しだけ昔へと戻ったかのような静けさが漂う。
まさに秘境と言った趣のこの場所に10月上旬、ちょうど空き部屋が出ていたのを見て、ドライブがてら訪れることにした。
市街地ではまだ深い緑に包まれた山々も、八甲田へ近づくにつれ、次第に秋の色を帯びる。国道103号を進むと、谷地温泉の看板が現れ、そこからは400メートルほど車一台が通れる細道を入っていく。
両脇のブナの木々が頭上で枝を重ね、黄色く染まりかけた葉が光を透かす、木漏れ日のトンネルを抜けた先に、木造二階建ての湯宿が姿を現した。


車を駐車場へと止め、玄関へ。靴を脱ぎ、受付で他の方がチェックインを済ませるまでのひととき、お土産コーナーに目をやる。青森名産のりんごを使ったお菓子やジャム、谷地周辺に棲むテンのぬいぐるみ等々、様々な商品が並んでいた。



自分の番となり、チェックイン後に案内されたのは二階の清潔感のある和室。部屋に置いてある冊子を見ると、建物内は自家発電で電力をまかなっているらしく、冷蔵庫はないが、売店で飲み物を買うことができ、必要ならクーラーボックスを持ち込めば十分。便利さよりも、山の中で過ごす静けさが勝る。


夕食までの時間まで少し時間が空いたため、館内を見て回ることにした。
1階へと降り、入り口側、下駄箱の上側に飾られた地図を見つけた。八甲田山岳のスキールートだ。八甲田山岳一帯はバックカントリーの愛好家たちが訪れる人気の場所でもある。八甲田では、樹氷、いわゆるスノーモンスターを見ることもできる場所。冬の時期にはまた違った景色を見せてくれるのだろう。

再び2階へと戻り、二階の共用洗面台の脇に置かれたグラスで八甲田山麓の天然水を一口。
冷たく、ほのかに甘い。
その水を部屋に持ち帰り、お湯を沸かしてお茶を淹れる。静かな時間がゆっくりと満ちていった。

夕食の時間となり、1階の食堂へ。廊下の壁面には、谷地温泉の歩みを刻んだ古写真が並ぶ。

席に着くと、淡い紅色の「紅サーモン」や網茸、岩魚など、山と川の恵みが並んでいた。紅サーモンは青森県初の淡水養殖ブランド。とろけるような口当たりに頬が緩む。岩魚は新郷村で育ち、谷地温泉の池で泳ぐものを使用しているという。臭みがなく、身はふっくらとして美味しかった。


そして、谷地温泉の目玉の一つである温泉は、自身の好きな時間に入浴出来るというのが嬉しいところ。谷地温泉は下記の清掃時間以外は宿泊者は自由に入浴が可能だ。
- 9:00~10:00
- 17:00~17:30
- 20:30~21:00
38度の霊泉と言われる下の湯と42度の白濁した上の湯に分かれていて、下の湯は、無色透明の単純硫黄温泉「硫化水素型」(低張性弱酸性温泉)、上の湯は硫黄の湯花で白濁した42℃の温泉で熱湯と呼ばれ、泉質は単純温泉(低張性弱酸性低温泉)だ。
下の湯で体を慣らした後、上の湯に身を沈めると、心もほどけていくようだった。

時代時代に合わせて変化し続けながら、八甲田の恵みを五感で体感させてくれる谷地温泉。
また時期を変えてふらりと立ち寄ってみたい。
谷地温泉
〒034-0303青森県十和田市法量谷地1
HP:https://www.yachionsen.com
Instagram:https://www.instagram.com/yachi_aomori
日帰り温泉営業時間:10:00~15:00(最終受付14:30)
冬季期間の11月1日~4月末日は火・水・木曜日は休館
※不定期で休業する場合あり。
アクセス:定額制タクシーや無料送迎バスあり。詳細は公式ホームページで。冬季期間車で訪れる場合は、「青森みち情報」で通行止め情報等を確認することを推奨。